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Texts
萩中茉優のメゾチント
メゾチントは銅板に無数の傷を打ち込み、削り、磨くことで黒と白を立ち上げる古い版画技法である。本稿は、その深い黒の物質性、光を内包しながら沈み込む黒、地の白よりも輝く白を起点に、萩中の制作を辿る。学部から大学院へと、萩中はモチーフの表現者から黒そのものの探求者へと深化し、ベルソーの番手や目立ての回数といった多数のパラメータを変えながら理想の黒を追い求めた。《干物脱走》では、縄に連ねられた干物の魚が一匹ずつ足を持ち、それぞれ固有の表情で描き分けられている。食材として一括りにされることへの静かな抵抗。メゾチントの黒は、この不条理でコミカルな脱走劇を生死の境へと引き上げ、存在の問いを内包する。
カフカの階段
道又蒼彩の作品には、階段に居る人々が描かれる。登る者、降りる者、立ち止まる者、振り返る者。生田武志の提唱する「カフカの階段」を参照している。同じ段に立っているはずなのに、その高さの感じ方が違うこと、そして一度降りた段を登り直すことの困難さを主題とする。道又が用いる油性木版画のリダクション・プリントは、版木を段階的に彫り進めながら紙に色を重ねる技法で、一度刷った版は前の状態に戻らない。複製のための媒体でありながら、複製が効かない。この不可逆性は主題に対する偶発的な条件ではなく、主題そのものである。
田崎蟻、不在を据える
再会を主題としながら、その相手は描かれていない。代わりに据えられた、無人のベビーカー。影に紛れた一つの形を人と見誤り、それが空の容れ物だと気づくとき、見るという行為そのものが立ち上がる。