石黒光は、喪失という個人的経験を起点に、存在と不在のあわいを描き出す。蝶や蛾、貝殻は、消えゆくものと循環するものの徴として画面に現れ、宙に浮かぶ顔は、記憶と無意識の層を横断する。そこにあるのは説明ではなく、儚さに触れ続けるための装置である。作品は、観る者それぞれの内側に、静かに開かれていく。

アーティスト・ステートメント

石黒光の作品は、個人的な体験から普遍的なテーマへと昇華され、深い内面の探求を通じて現代社会に鋭い洞察を提供している。彼女の作品が問いかけるテーマ — 存在と不在 — は、今日、多くの人々が直面する問いと重なり、作品との対話を生み出している。

彼女の作品に度々登場する蝶や蛾、貝殻のモチーフは、物質的な存在の境界を超え、生命の儚さと循環を象徴している。それは単なる視覚的な刺激を超え、儚さに向き合う依り代として作用し、観る者に内面の探求を促す。画面の中に現れる宙に浮かぶ女性の顔。”大切な子”として描かれる姿は、少女とも大人とも取れる表情から、現実と深層の意識の境界を探る存在として印象付けられる。時間に縛られないその姿は、永遠性と同時に隠された物語の存在を暗示し、観る者に想像の余白を残す。

彼女の制作過程がフロイトの言う「喪の作業」[1]と表現されることは、作品に深い心理的なレイヤーを与える。個人的な喪失を出発点とするこのプロセスは、観る者に悲しみと再生のテーマを想起させ、彼女自身の内面からあふれ出る感情が、共感と内省を引き起こす。アーティストの経験を超えて、彼女の作品は多くの人々にとって共鳴するものである。

石黒光の作品は、日本の精神性や文化的背景と、現代的な心理的テーマを結びつけ、今日の複雑な世界における人間の内面と対話している。

参考文献:

[1] ジークムント・フロイト、新宮 一成(監修)、 フロイト全集 第14巻 1914-15年、岩波書店、2010年

経歴

特定のジャンルや技法への帰属よりも、絵画そのものに向き合う態度を基点に制作を行っている。蝶や蛾、貝殻といった有機的モチーフは、儚さの担い手として機能し、宙に浮かぶ顔貌は、経験された時間から切り離された時間性を画面上に導入する。喪失の経験に基づくその制作は、「喪の作業」としても読解可能であり、感情を再編成し、共有可能な知覚の場へと開いていく。東北芸術工科大学美術科日本画コース卒業(2024年)、同大学大学院芸術文化専攻絵画研究領域在籍(2026年修了予定)。主な展覧会に、個展「私は、これらの絵のよき語り手ではないだろう」(aaploit、東京、2025年)など。第9回石本正日本画大賞展特別賞(2024年)ほか受賞。2002年生まれ。

CV

学歴

2024

東北芸術工科大学 芸術学部 美術科 日本画コース 卒業

2026

東北芸術工科大学修士課程 芸術文化専攻 絵画研究領域 修了

個展(抜粋)

2025

『私は、これらの絵のよき語り手ではないだろう』, aaploit, 東京

2024

『石黒光 展(第24回蔵のまちアート・ぶらり~)』, ギャラリーつじるし, 福島

『witch craft』, haco, 東京

グループ展(抜粋)

2025

『くしの目のほこり』, aaploit, 東京

2024

『第9回石本正日本画大賞展』, 石正美術館, 島根

『ミナミハラアートウィーク』, 山形県米沢市

『SQUARE EXHIBITION』, ART FOR THOUGHT, 東京

『Emerging Echoes: Presenting Realism』, ソウル, 韓国

『アマダレ2024』, 画廊翠巒, 群馬

アートフェア

2025

Incheon Art Show 2025, 仁川, 韓国 (aaploit)

2024

AFAF – Art Fair Asia Fukuoka, 福岡(aaploit)

受賞歴(抜粋)

2024

第9回石本正日本画大賞展 特別賞「日本海信用金庫理事長賞」

2023

第44期 国際瀧冨士美術賞 優秀賞