古着のブランドロゴを消さず、架空の植物モチーフを重ねる。実在のどの種にも同定できないが、植物であるための条件を備えた形象を、工業用ミシンの速度で施す。機械の時間と植物の時間、二つの矛盾する時制が、一枚の衣服の上に解かれないまま定着する。

アーティスト・ステートメント

工業用ミシンは産業的な速度で刺繍を施す。どの植物モチーフを、衣服のどの位置に、どの大きさで置くか、糸の色をどう選ぶか、構成の決定は、衣服一枚ごとに積み重なる。

素材に選ぶのは古着。すでに別の文脈で使われ、誰かの身体を通過し、表面に何かを刻んだ衣服だ。そこにある記号を消さず、重ねる。呼び込むのは架空の植物モチーフである。茎を持ち、花弁を持ち、群生する。植物であるための条件を備えながら、実在のどの種にも同定できない形象。既知の種を持ち込めば、その植物が帯びる文化的な記憶が画面に混入する。私が必要としているのは意味から切り離された、植物の時間の質感だけである。成長し、循環し、ゆっくりと上書きするリズム。

機械の速度と植物の時間は方向が違う。その矛盾は解消されないまま、一枚の衣服の上に定着する。衣服の上には少なくとも三つの時制がある。古着が蓄えた過去、今もそこにある記号の現在、まだ名前を持たない植物モチーフが示す、到来していない時間。それらは答えを持たず、解かれないまま、重なり続ける。

経歴

欲望の記号の上に、名前を持たない生命は宿れるか。熊谷綾乃はこの問いを、衣服という物質の上で問い続ける。ブランドロゴを持つ古着を選び、工業用刺繍ミシンで架空の植物を重ねる。どの種にも同定できないが、植物であることの条件を備えた形象を、ロゴを消すのではなく、花弁の下で呼吸するように残す。アパレルの生産・流通の現場を経た後、産業的な速度で縫い進むミシンという道具を、植物の時間を持ち込む手段として選んだ。東京造形大学テキスタイルデザイン専攻領域卒業、同大学院デザイン研究領域修了(2016年)。

CV

学歴

2014

東京造形大学 造形学部 デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻領域 卒業

2016

東京造形大学大学院 デザイン研究領域 修了

個展

2025

『Imprint – Texture of Logos』, aaploit, 東京

2022

『altitude』, aaploit, 東京

グループ展(抜粋)

2023

『8の字ダンス』, 黄金町アーティスト・イン・レジデンス, 神奈川

『東京造形大学 第9回助手展』, 東京

2022

『東京造形大学 第8回助手展』, 東京

『SICF23, スパイラル』, 東京

『Hand-held Art チャリティー/エコバッグアート展』, 岡山

2017

『清州国際工芸ビエンナーレ』, チョンジュ, 韓国

2016

『THE DOROTHY WAXMAN TEXTILE DESIGN PRIZE』, ニューヨーク, アメリカ

『The 2nd Young Textile Art Triennial - YTAT 2016』, ポーランド

2015

『日本のクラフト in IWATA』展, 磐田市新造形創造館, 磐田

『bi chu watabokkee ー木から糸へー』展, 岡山

レジデンス・フェローシップ

2015

備中アートブリッジ(岡山県主催), 岡山

ワークショップ

2022

裂き編みワークショップ, aaploit, 東京

2017

裂き編みワークショップ, mee mee center sumeba, 下諏訪

受賞・助成

2018

日本クラフト展 招待審査員須藤玲子賞

2016

東京造形大学大学院 ZOKEI賞

2015

日本クラフト展 読売新聞社賞