工業用ミシンは産業的な速度で刺繍を施す。どの植物モチーフを、衣服のどの位置に、どの大きさで置くか、糸の色をどう選ぶか、構成の決定は、衣服一枚ごとに積み重なる。
素材に選ぶのは古着。すでに別の文脈で使われ、誰かの身体を通過し、表面に何かを刻んだ衣服だ。そこにある記号を消さず、重ねる。呼び込むのは架空の植物モチーフである。茎を持ち、花弁を持ち、群生する。植物であるための条件を備えながら、実在のどの種にも同定できない形象。既知の種を持ち込めば、その植物が帯びる文化的な記憶が画面に混入する。私が必要としているのは意味から切り離された、植物の時間の質感だけである。成長し、循環し、ゆっくりと上書きするリズム。
機械の速度と植物の時間は方向が違う。その矛盾は解消されないまま、一枚の衣服の上に定着する。衣服の上には少なくとも三つの時制がある。古着が蓄えた過去、今もそこにある記号の現在、まだ名前を持たない植物モチーフが示す、到来していない時間。それらは答えを持たず、解かれないまま、重なり続ける。