彫り進みは、一枚の版を少しずつ彫りながら、色を重ねて刷っていく版画の技法です。英語ではリダクションプリントと呼ばれます。
ふつうの多色刷りの版画では、色ごとに別々の版を用意します。彫り進みでは、版は一枚だけです。まず一色目のために版を彫り、予定しているすべての紙に刷ります。次に、その色を残したい部分を彫り取り、二色目を重ねて刷る。これを何度も繰り返していくうちに、版はどんどん削られ、最後の色を刷り終えたときには、最初の姿はもう残っていません。
そのため、彫り進みの版画は、後から刷り増すことができません。何枚刷るかは、一色目を刷る前に決めておくしかない。1950年代の終わりに、ピカソがこの技法でリノカットの版画を多く制作したことでも知られています。
道又蒼彩の木版画は、この彫り進みの技法を取り入れています。ただし、道又の場合、彫り進めるのは主線と影の版です。何度も刷り重ねるあいだに、版のずれやかすれで、どうしても思いどおりにならない一枚が出てきます。道又は、最初に刷った枚数から、エディション番号を付けられないものを一枚ずつ外していきます。最後まで残ったものだけが、番号を与えられ、ギャラリーの壁に掛けられます。
エディションの項目で、aaploitは、番号が付けられた作品はすべて同一の作品であると書きました。彫り進みは、そのことがいちばん厳しく試される技法でもあります。同一でありうるものだけが、最後に残るのです。