静物画は、果物や器、花、道具など、動かないものを描いた絵画です。17世紀のオランダで一つのジャンルとして確立しました。

呼び名には、ものの見方が表れています。英語のスティル・ライフは、オランダ語のスティルレーヴェンに由来し、「静止した生」を意味します。フランス語ではナチュール・モルト、「死んだ自然」と呼ばれます。同じ絵を、止まった生命と見るか、命を失ったものと見るか。静物画は、その二つのあいだに置かれてきました。

明治時代に西洋の絵画が入ってきたとき、日本語ではこれを静物と呼びました。生とも死とも言わず、ただ静かな物として名指した言葉です。

ヴァニタス

ヴァニタスは、時間が過ぎていくこと、すべてがいずれ失われることを、ものに託して示す静物画です。ラテン語で「空しさ」を意味し、旧約聖書の『コヘレトの言葉』にある「空の空、すべては空」に由来します。

17世紀のオランダでは、髑髏、時計、燃え尽きかけた蝋燭、しおれた花、割れたグラスなどを描き込んだヴァニタスが多く描かれました。豊かさを誇る静物の中に、それが長くは続かないことを示す印が置かれています。

現代のヴァニタス

ヴァニタスは、17世紀で終わったわけではありません。高島野十郎は、一本の蝋燭が燃える小さな画面を、生涯にわたって何枚も描き続けました。炎は描かれた瞬間にも燃え尽きていく途中にあり、その絵は親しい人に手渡されていったと伝えられています。

ダミアン・ハーストは、薬の箱や錠剤を整然と並べた薬棚を作品にしました。薬は、死を先送りしようとする現代の祈りのようにも見えます。

蝋燭の炎と薬の棚。形は違っても、どちらも、ものを通して時間と死を見つめる静物です。

高橋美紗貴は、本来の機能を失ったもの、役目を終えたものを描きます。錆びた金属の板、止まったままの懐中時計。機能が剥がれたとき、ものはただの構造として、そこに在ることだけを見せ始めます。ヴァニタスがものに「失われること」を語らせたのに対して、高橋の静物は、失われた後に残るものを見ているようにも思えます。

佐藤来夢の《在り処》は、作家自身をモデルとした球体関節人形です。2025年の個展で見せたこの作品は、のちに二科展で彫刻の森美術館奨励賞を受けました。彫刻の側から見れば自刻像であり、その時点の身体を写し取ったスナップショットでもあります。個展が「still life with innocence」と題されたのは、そのためでした。止まった生として、ある時の自分をそこに留める。スティル・ライフという言葉の元の意味が、人形のかたちで立ち現れています。