版画や写真、彫刻の作品に「3/10」のような番号が付いているのを見たことがあるかもしれません。これがエディション番号です。この「3/10」という表記は同じ作品を全部で10点制作し、これはその3番目である、という意味です。作家が手元に残すための「AP」(アーティスト・プルーフ)と記されたものが、別に作られることもあります。一方、枚数を限定しないものは、オープンエディションと呼ばれます。

エディションは、もともと素材の制約から生まれたものでした。版画の版は、刷るほどに摩耗していきます。ブロンズの彫刻も、型から鋳造できる数には限りがあります。何枚刷ったか、何体鋳造したかを示す番号には、実際の意味がありました。版そのものが残らない彫り進みのような技法では、その制約がさらに厳しくなります。

写真や映像は事情が少し異なります。ネガやデータがあれば、同じものをいくらでも作ることができます(同一性の議論はまた別のお話)。そこに枚数の上限を設けるのは、素材の制約ではなく、作家やギャラリーの宣言です。複製できるものに希少性を与え、美術作品として市場に乗せる。写真にエディションが持ち込まれたのは、写真をアートとするための工夫であったと考えています。

ピエール・ユイグは、こう言っています。

「映像作品のエディションはフェイクです。ロダンの彫刻は型が摩耗するために3体のヌードしか作ることができなかった。これは理にかなっています。しかし、私の全ての作品は私のハードディスクドライブに0と1で保存されています。」

aaploit は版画を扱うギャラリーとして、エディション番号が付けられた作品は、すべて同一の作品であると考えています。一枚ごとに違う表情がある、という言い方はしません。番号は、同じものが何点あるかを示し、それ以上は作らないという約束です。写真や映像であっても、その約束を守ることが、エディションという仕組みを支えています。

それでも複製された作品のあいだに差が生まれることはあります。浮世絵は枚数を限定しない商品として、数百枚単位で刷られ、版木がすり減るにつれて線や色が変わっていったため、初摺がもっとも好まれます。これはエディションという約束の外で起きた差です。一方、写真やデジタルの作品では、どの一枚も見た目は変わりません。それでも市場では、番号や来歴、作家がどこまで制作に関わったかによって差がつけられます。デジタルアートでは、NFTとしての所有の記録が価値になることもあります。販売が進むにつれて価格を上げていくステップアップ・エディションも、同じ画面に順番による差をつける仕組みです。

参考文献

Noah Horowitz, Art of the Deal: Contemporary Art in a Global Financial Market, Princeton University Press, 2011, p.79(引用は筆者訳)