メゾチントは、銅版画の技法の一つです。まず、ベルソーと呼ばれる刃の付いた道具を銅版の上で揺らし、銅版の全面に細かな傷を均一に打ち込みます。これを目立てと言います。この状態で刷ると、画面は一面の黒になります。そこから目立ての傷を削ったり磨いたりして、インクが乗らない部分をつくり、白を起こしていく。黒から光へ向かって描く、通常の描画とは逆向きの版画技法です。
17世紀のヨーロッパで生まれ、フランス語では「マニエール・ノワール」、つまり黒の技法と呼ばれました。絵画の複製に使われていましたが、写真の登場とともに廃れていきます。ほとんど失われかけたこの技法を、独自の研究でよみがえらせたのが、パリに渡った版画家、長谷川潔でした。
メゾチントの黒は、吸い込まれるように深いのに、どこか光を含んでいます。白い部分にも目立ての溝によるインクの痕跡がわずかに残り、完全に無にはなりません。それでも、紙の地の白より明るく輝いて見える。黒が深いから白が立ち、白が明るいから黒の深さが見える。二つの色が互いを引き立てながら、画面が成り立っています。
その黒は、ベルソーの目の細かさ、刃の摩耗、目立ての回数や方向、押し込む力によって変わります。萩中茉優は、同じモチーフを何十通りも刷り分けながら、6年をかけて理想の黒を探し続けました。萩中にとって、黒に至るプロセスは技術の習得ではなく、表現の核心そのものです。
詳しくは、論考「萩中茉優のメゾチント」(日本語/英語)で書いています。
参考文献
『町田市立国際版画美術館所蔵 長谷川潔展 パリに生きた銅版画家の軌跡』展覧会図録、東京新聞、2026年