マイクロポップは、美術批評家の松井みどりが、2007年に水戸芸術館で開かれた展覧会「夏への扉―マイクロポップの時代」で提示した概念です。大きな物語が終わり、不確かな時代に入ったとき、支配的な文化の中で、個人のユニークな「語法」をつくり出し、世界を知覚し、そこで生き延びるための術を見出していく。そうした姿勢を持つ表現を、松井はマイクロポップと呼びました。マイクロポップの作品は、日用品にほとんど手を加えず、配置だけで差し出すものがありました。
aaploit では、このマイクロポップの語法を受け継ぎながら、その上に表現の技法を乗せた作品を、ポストマイクロポップと呼んでいます。日常の小さな断片から世界を捉え直し、日常をサヴァイブしていく語法は、変わらず通底している。変わったのは、その語法が、表現技法によって立たされていることです。
身近なものを扱う表現は、内向きだと批判されることがあります。けれども、日常をサヴァイブする語法は、自分の小さな世界に閉じるためのものではなく、大きな構造の中で世界と関わり続けるための方法です。
この傾向は、2025年の「くしの目のほこり」展で見えてきました。石躍ミチ、石黒光、シクラトウカの三人は、日常に潜む違和や見過ごされた感覚を、それぞれの技法で画面に定着させました。櫛の目に溜まるほこりのような、微細な存在への眼差しです。
この傾向が結晶したのは、熊谷悠那の実践でした。熊谷は、タバコの空き箱やアボカドの種、ダンボールといった、価値を剥ぎ取られたものを支持体にして描きます。そこではハイブランドのロゴや宝石の輝きも、憧れの対象としてではなく、消費の後に残る空き箱と同じ平面に置かれています。詳しくは、論考「小さな揺れの倫理」で書いています。
参考文献
松井みどり『マイクロポップの時代:夏への扉』PARCO出版、2007年、pp.30–32