絵画の構成要素である墨や膠、胡粉らはそれぞれ炭素、タンパク質、カルシウムであり、生物を構成する要素でもある。
画材は画家の身体と地続きであると感じる一方、制作によって人造の生物を生み出す感覚がある。水張りした和紙が艶やかに思えるように、画材には切実な共感をもって接している。その絵画で描き出したいものは、まだ見ぬ大きな景色であり、それは他者を受け入れ、細部を変化させながらも全体としての姿を保ち続ける人間の在り方そのものだ。
松下は日本画の領域を起点とする素材、技法、思想を根元から反芻し、自らの身体を通して引き受ける実践を試みる。これらの実践を通じて、自分の手で芸術を再編している。そこからさらに逸脱した展開こそ、求めている未開の領域だ。
近年では、狩猟で捕獲された鹿や猪の原皮を譲り受け、自然のバクテリアによって分解させる伝統的な「川漬け法」による膠制作を行った。日本画の展色剤である膠を、単なる画材としてだけではなく、土地と生命の歴史を宿す存在として自覚するためである。