fbpx

石本陽 個展 「ことばの音」

東京都文京区の現代美術ギャラリーaaploitでは、2022年8月19日から9月4日まで石本陽の個展「ことばの音」を開催します。本展は石本の佐賀大学大学院を修了後の初の展覧会となります。また、名古屋のPHOTO GALLERY FLOW NAGOYAとの共同企画です。

石本は音とことばと視覚との関係性を探求する作品を制作してきました。ことばの起こりとは何か、人が話をするときのことばが音として響く様子は意味との不可分性を持っています。その意味を脱構築した時に、”ことば”はどのような音として響くのでしょうか。それを聞いたときに何を感じるのでしょうか。音は聴くものである。そのことに疑問を持ち、石本は一貫して音との関係性を問う作品を制作してきました。

《見える音》(2020)は、環境音をマイクで拾い、音を波形として可視化してディスプレイに提示し、パフォーマーはヘッドフォンにより聴覚を遮断し、とめどなく流れていくディスプレイの波形を天井に設置されたロール紙から手元に引き込み、鉛筆で波形を筆記するというインスタレーション・パフォーマンスでした。部屋に積みあがるロール紙が新たな環境音を創り出し、作品にフィードバックしていく。聴覚と視覚の間を探るような作品は、積みあがったロール紙によって時間の経過を示唆させ、天井からのロール紙は永続的に見えるループを暗示していました。とめどないパフォーマンスは観るものを圧倒しました。

《ことばの音》(2022)では、音をことばとして捉えています。紙とトレーシングペーパーで多層的に表現された作品は、ところどころ意味が通じないひらがなの並びになっています。一見すると、ことばとして成立していません。そこに合わせられる朗読、ここから聴こえる音はことばとして捉えられ物語を想起させます。しかしながら朗読の声もことばが所々ずらされています。ことばが指し示す意味をずらしていますが、聴こえた音をことばとして認識すると、実際の音に多少のずれがあったとしても既に音はことばにバトンタッチを終えており、元の音を捉えきれなくなってしまうことがあります。石本の作品はこうした感覚から思考への転換を捉えているようです。

言い間違え、聞き間違え、口伝で伝えていたときは、そのようなエラーとも言える取り違えがあったのでしょう。音がことばになり、文字を与えられたときに、アーカイブとして機能するようになりました。そこにはどうしても失われてしまう情報があったと想像できます。例えば古代のことば、古事記は口伝で伝えられていたのではないかという研究結果*1がありますが、どのようなイントネーションだったのでしょうか。詩吟のようではないかと言われてもいます。アクセントはどのように、どこにつけていたのでしょうか。音とことば。偶然の結果として紐づけられた意味との関係は、時間によって強化されてきたのでしょう。

本展覧会は現代写真アートギャラリーのFlow(名古屋)で提示しました。石本の作品が写真ギャラリーで提示されたことの意味合いはどのようなことだったのでしょうか。トニー・ゴドフリーは「写真を使うことでコンセプチュアル・アートが生んだ最大の効用は、自明のことを表明するのではなく、問いを発する機能を写真に与えたことだった。」*2と言いました。

コミュニケーション、ことば、音、知っている事と音として発している事、聴こえている事、それらの関係性を一考して頂けますと幸いです。

*1 三浦 佑之「口語訳 古事記 神代篇」文春文庫、2006年

*2 トニー・ゴドフリー「コンセプチュアル・アート」木幡和枝訳、岩波書店、2001年

本展開催にあたっての作家ステートメントです。

 普段何気なく感じている思いを”ことば ”にすることで、⾃分が思っていたことを⾃覚することができ、それが⾃分の考え、⾏動を⽅向付けることがあります。他⼈に⾔わなくても、⾃分⾃⾝で“ことば”にして書き表すだけでも、⼗分にその効果はありますが、”ことば ”を⾃分以外の誰かに対して発すると、その“ことば”は、聴くという⾏為を通して、⾃分ひとりの世界ではなく社会の中に存在し、それはもう⾔わなかったこと・聴いてないことにならない、という意味でも実在するようになります。
 ⾳の中に無限の意味を求めるだけでなく、”ことば ”には、むしろ無限の意味を求めるために、⾃分のいのちや⽣を投⼊するひろがりであり場であろうとする⼒が働くのではないでしょうか。 
 今回の個展「ことばの⾳」では、⾳の中でも、⽇本の“ことば”を題材に、⾳と空間との関係性についての探求を⽬的としています。 
 今回の個展は佐賀⼤学で展⽰した<ことばの⾳>をセノグラフィーとして提⽰するものです。
 インスタレーションを写真として記録し、提⽰するとき、それは展覧会のアーカイブとして機能するのか、あるいは写真という媒体を通した別の作品となるのか、前述した“ことば”の交換の⾏為と連環し、積み重なっていく様⼦を観賞してください。


共同企画の展覧会情報

石本陽のことばの音 FLOW NAGOYAと共同開催
PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA

2022年8月6日(土) ~ 8月14日(日)
8月6日は搬入後に展示となりますのでご注意ください。


展覧会概要

2022年8月19日 – 2022年9月4日
金: 14:00 – 19:00, 土: 13:00 – 19:00, 日: 13:00 – 17:00
Web: https://aaploit.com/the_sounde_of_a_word-ishimotominami/
※期間中の他の日程(曜日)につきましてはリクエストにより営業致します。

作家略歴

石本陽 / Minami ISHIMOTO

福岡県出身、2022年に佐賀大学大学院 地域デザイン研究科 修了。学部時代から音に関する作品制作を実施しております。積極的に学内外で作品を発表してきました。