菊地寅祐は幼少期からビデオで同じ映像を繰り返し見てきた。何度も再生する。そのたびに磁性体は摩耗し、像はわずかに遠のく。触れなければ見えない。しかし触れるたびに、触れる前の状態には戻れない。

菊地は樟木を彫る。ノミが入るとき、彫られた素材は二度と戻らない。作品の多くはレリーフという形式をとる。彫刻でありながら、鑑賞者は表面からしか触れることができず、内部で起きた木と手の応答は、痕跡としてだけ残る。

アーティスト・ステートメント

菊地寅祐は幼少期からビデオで同じ映像を繰り返し見てきた。何度も再生する。そのたびにテープの磁性体は摩耗し、像はわずかに遠のく。触れなければ見えない。しかし触れるたびに、触れる前の状態には戻れない。映像に向き合うとき、見ている者と像のあいだの距離は消える。映像の時間がそのまま自分の時間になる。しかし近づこうとする行為が対象を変え、変わった後にしか触れることができない。

菊地は樟木を彫る。ノミが入るとき、彫られた素材は二度と戻らない。樟が何年もかけて蓄えた時間が、制作のいまに介入し、彫る手はそれに応答する。 菊地の彫刻は、その手前に立つことはしない。すでに触れてしまった後の、不可逆の表面である。

作品の多くはレリーフという形式が選ばれる。彫刻でありながら、鑑賞者は表面からしかこの彫刻に触れることができない。内部で起きた木と手の応答は、痕跡としてだけ残る。

経歴

触れなければ見えない。しかし触れるたびに、触れる前の状態には戻れない。樟木によるレリーフ彫刻を制作する。再生のたびに摩耗するビデオテープの像と、ノミが入るたびに戻らない木。両者を貫く不可逆性を、鑑賞者が触れうるただひとつの表面として提示する。2022年、東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。2025年、同大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。1998年、山梨県北杜市生まれ。

CV

展示歴(抜粋)

2025

「夕暮れを待つ星」、クマ財団ギャラリー、東京

2024

「木と生きる 木の可能性を知る、6日間」、東京ミッドタウン、東京

「KUMA experiment 2024-25」、クマ財団ギャラリー、東京

2023

「未来の大芸術家たち」、平成記念美術館ギャラリー、東京

2022

「MASK」、powderroom,Uptown KoenjiGallery、東京

2021

「まだその時ではない」、創英ギャラリー、東京

受賞歴(抜粋)

2025

artの力賞、東京藝術大学

2024

クマ財団クリエイター奨学生(第8期)

2023

サロン・ド・プランタン賞、東京藝術大学

平成芸術賞、東京藝術大学