Masaki Hagino / 萩野 真輝 個展 「Es weilt im Inneren / 内側に潜む」

aaploit(アプライト)では、2025年9月12日(金)から9月28日(日)の日程でMasaki Hagino / 萩野 真輝の個展「Es weilt im Inneren / 内側に潜む 」を開催します。


萩野 真輝は、私たちの脳が構築する主観的な空間を絵画として描き出そうとしてきました。彼の「多層遠近法」は、外界をそのまま写すのではなく、私たちの内側で起きている知覚のプロセス―脳内での主観的空間認識―を絵画として実現する試みです。 

15世紀初頭、フィレンツェの彫刻家・建築家ブルネレスキによって体系化された一点透視図法は、以後西洋絵画における「客観的」空間表現の基準となりました。しかし、私たちの実際の知覚は、そのような幾何学的秩序には従いません。萩野の探求は、この乖離に正面から向き合い、むしろ主観的知覚こそを「写実」として捉え直そうとする、逆説的な試みと言えるでしょう。 

本展のタイトル「Es weilt im Inneren / 内側に潜む」は、ドイツと日本を往還する萩野の二重の視座を象徴しています。「weilen」(しばし滞在する、宿る)という動詞が示すのは、私たちの内側に常に存在しながら、普段は意識されることのない知覚の働きです。 

エトムント・フッサールは、対象世界への素朴な信念を一旦停止(エポケー)し、意識そのものがいかに事象を成立させているかを吟味することを提唱しました¹。萩野の絵画もまた、外的世界の再現を括弧に入れ、私たちの内側で生起している知覚そのものを捉えようとします。白い形は、四角形でありながら三角形にも見える―これこそが萩野の多層遠近法が生み出す知覚の揺らぎです。透明な色彩の層は、空間として形をなそうとする、生成途上の何か。それらは「内側の写実」として、私たちの意識に直接語りかけてきます。 

自然光が差し込むaaploitで、萩野の絵画は時間とともにその表情を変えていきます。この変化もまた、私たちの内側で絶えず更新されている知覚の動きを映し出しています。どうぞ、「これは風景だ」「あれは形だ」といった既成の判断をいったん括弧に入れ、あなた自身の内側に潜むものと向き合ってみてください。 

参考作品:Hagino Masaki, A study of the relationship between subjectivity, time and memory LX, 2024, Mixed media with silicone on canvas, 910 × 727 mm (35 ¾ × 28 ⅝ inches), © 2024 Hagino Masaki, Courtesy of the Artist

¹ エトムント・フッサール. 渡辺二郎(翻訳).イデーン I‐I 純粋現象学への全般的序論. みすず書房. 1979. 

作家について

Masaki Hagino / 萩野真輝(はぎの・まさき) 

1987年愛知県生まれ。2019年ドイツ・ハレ州立芸術大学ブルク・ギービヒェンシュタイン修士課程修了。「内側の写実表現―主観的知覚と多層遠近法―」をテーマに、脳内での主観的空間認識を絵画として探求。西洋絵画史における遠近法の問題系を批判的に継承しながら、内的知覚の「写実」という新たな概念の構築を試みる。光の移ろいや視点の変化によって異なる表情を見せる作品を通じて、知覚体験の個別性と普遍性を同時に提示している。 

アーティストページ

aaploitディレクターより 

「Es weilt im Inneren / 内側に潜む」―このタイトルは、萩野の実践の本質を静かに、しかし的確に言い当てています。 

フッサールが説いた「エポケー」―判断停止による純粋意識への還帰。萩野の絵画は、まさにこの哲学的態度を視覚的に実践しています。「これは○○だ」という既成の判断をいったん保留にすることで、初めて見えてくるものがある。 

私たちは普段、自分がどのように世界を見ているかを意識することはありません。しかし萩野の絵画の前に立つとき、突如として、自分の内側で起きている知覚の働きに気づかされます。それは常にそこにありながら、普段は潜んでいるもの。 

ドイツ語の「weilen」が持つ、時間の持続を含んだ滞在のニュアンスは、萩野の絵画体験そのものを表しているようです。作品の前で過ごす時間は短くても、その体験は私たちの内側に長く留まり続けるでしょう。 

aaploitの空間で、どうぞゆっくりと、あなた自身の内側に潜むものと出会ってください。 

展覧会概要

Es weilt im Inneren / 内側に潜む 

会期
2025年9月12日(金)から2025年9月28日(日)
時間
会期中の金、土、日 13:00 – 18:00
※会期中の他の日程の観覧をご希望の場合にはご予約ください。 
会場
aaploit 東京都文京区関口1-21-17 TMKビル 2階