aaploitでは2024年7月5日(金)から7月21日(日)まで、乾幸太郎と安村日菜子による二人展「Resonance from Fragments」を開催いたします。本展は、漂着物を金継ぎによって新たな形を作るアーティスト安村日菜子と、テキスタイルそのものを見せることを探求するアーティスト乾幸太郎による展覧会です。
安村日菜子の作品は、意図的にあるいは意図せずに所有者の手元を離れ、海を漂い、再び人の手に戻ってきた漂着物を呼び継ぎによって制作した立体作品です。これらの物が、どのような来歴だったのか知る由はありませんが、アーティストに拾い上げられるまで、その存在は忘れ去られ、打ち捨てられていました。道具としてのライフサイクルを外れ、漂流し、人知れず波打ち際に漂着した物たち。その過去は想像するしかありません。
乾幸太郎の作品は、テキスタイルという素材の特質を探求しています。テキスタイルは糸の原料の生産から撚糸を経て、織りあるいは編みを行い完成します。多くの工程と人の手を渡って完成したテキスタイルは、単なる素材のみならず、テキスタイルから作られる衣服を通じて、人と人との繋がりを織りなすものであり、その見た目と物質性の中に深い社会的・文化的意味が宿ります。乾が見せる作品は衣服になる以前のテキスタイルであり、ドレス・コードをはく奪した時に見えてくるものは何かを問いかけます。
イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』は、マルコ・ポーロがジンギス汗に語る架空の都市の旅物語です。マルコ・ポーロはザイラについて次のように述べています。
「しかし都市はみずからの過去を語らず、ただあたかも掌の線のように、歩道の縁、窓の格子、階段の手すり、避雷針、旗竿などのありとあらゆる線分と、またさらにその上にしるされたひっかき傷、のこぎりの痕、のみの刻み目、打った凹みといったなかに書きこまれているままに秘めておるのでございます。」1
漂着するうちに刻み込まれた痕跡、テキスタイルに込められた仕事、そこに見える線や形は、過去を導きだす手がかりかもしれません。本展覧会は漂着物とテキスタイルという異なる物質、作品の共鳴を通じて、物と物との関係性を探求します。それぞれの物が持つ意味と価値を再考させ、相互作用が新たな視点を生み出します。乾幸太郎と安村日菜子の二人展では、テキスタイルの平面作品と漂着物を用いた立体作品を展示します。
安村日菜子は、その収集癖と独自の創造性によって、新しいアプローチで作品を生み出しています。
安村は、人目につかない海岸で見つけた漂着ゴミを収集し、形を見出しています。それぞれの漂着物と向き合い、物と物が重なる場所を見出し、それぞれが呼び合うような形を作り上げていきます。そうして表れた形は呼び継ぎによって組み合わせます。
呼び継ぎは金継の技法のひとつであり、陶器の破片の一部が欠落した時に、別の陶器の破片を組み合わせてひとつの器を作り上げる技法です。
本来無関係であった物が互いに関連し合う新たな形を生み出す。安村の手によって選ばれ、再構成されたこれらのオブジェは、かつてどれだけの時間を所有者のもとで、あるいは海岸で過ごしたのか、そしてどのように所有者から離れる運命をたどったのか、そのライフサイクルの一部としての意図的あるいは偶発的な出来事を物語っています。
乾は”テキスタイルそのものを鑑賞するとはどのようなことか”という問題意識を持ち、作品を制作しています。
経糸と横糸から織り込まれる織物(ファブリック)や横糸のみで編み込んでいく編物(ニット)は、組織と呼ばれる織り方、編み方があります。
テキスタイルは衣服だけでなく飛行機や自動車などの産業機械、家具、インテリアや建材など、様々な場所で利用されていますが、それらは日常に溶け込んでおり何気なく見えているだけかもしれません。
キャンバスに織り込む組織は普段は支持体として沈み込む麻布をも前景化させるようです。また、シルクスクリーンは生地の組織を写し取るように制作します。乾は細かな紗を用いて意図的に目詰まりを作ります。意図的な目詰まりによって、同じ版下を使ってもそれぞれに異なる表情を見せます。
安村の漂着物からの見立てと乾のテキスタイルの構造そのものを見せるという姿勢は、身の回りの物に対する新たな視点を投げかけるのではないでしょうか。
乾幸太郎と安村日菜子の二人展です。この機会に是非、ご高覧ください。作品、作家、展覧会に関するお問い合わせはinfo@aaploit.comまでお願いします。
- イタロ・カルヴィーノ著. 見えない都市. 米川良夫訳, 河出書房新社, 2003, p.17 ↩︎
展覧会概要
Resonance from Fragments
- 会期
- 2024年7月5日(金)から2024年7月21日(日)
- 開場時間
- 金、土、日の13:00 – 18:00
- 会場
- aaploit
東京都文京区水道2-19-2
有楽町線 江戸川橋駅 出口4から徒歩9分程度
※会期中の他の日程(曜日)につきましてはご予約ください。
アーティスト略歴(50音順)
乾幸太郎 / Koutaro INUI
- 1999
- 大阪府出身
- 2022
- 滋賀大学教育学部卒
- 2024
- 京都芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻 修了
展示歴
- 2024
- 「Explore Kyoto vol.2」京都
- 2023
- 「京をどり記念作品展」京都
- 2023
- 「SPURT展」京都
- 2022
- 「HOP展」京都
安村日菜子 / Hinako YASUMURA
- 2000
- 広島県出身
- 2024
- 広島市立大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻 修了
展示歴
- 2022
- 「FLAT CITY 2022」THE POOL、広島
「秘密の花園」タメンタイギャラリー、広島 - 2020
- 「カナリアがさえずりを止めるとき」オルタナティブスペース コア, 広島
- 2019
- 「MULTI PLAY」尾道