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半澤友美 / Tomomi Hanzawa

半澤友美は紙というどこにでもある日常的な素材を媒介として、人間と物質の深遠な関係を探求する現代美術家である。彼女は紙を「繊維の絡まりによって成り立つ構造物」と定義し、その物理的構造自体が人間の物語を内包するオブジェクトであると捉えている。半澤の制作プロセスは、紙という物理的な形成そのものをアートに昇華し、『紙は人である』という独自の哲学を具現化している。この哲学は、ティム・インゴルドの”材料性”の概念とも共鳴し、紙を単なる静的な素材としてではなく、作り手との相互作用を通じて絶えず変化し続ける生きたプロセスとして捉えるものである。

日本、アメリカ、メキシコ、カナダでの多文化的な制作経験を経て、半澤は、紙を制作する技法に文化の枠を超えた普遍的な特質を見出した。彼女は、世界中のあらゆる場所でその環境に沿った異なる方法で作られ、様々な目的に向けて発展してきた紙の多様性に着目し、その構造やプロセスを辿ることで、紙に内包された人間の物語を紐解き、現在と重ね合わせる試みを行っている。この発見は、文化人類学者フランツ・ボアスの”文化伝播”と”独立発明”の概念を想起させ、紙という媒体の文化的普遍性と独自性を同時に示唆している。異なる地域のさまざまな伝統や技法を吸収することで、紙の多様な表現を探求し、文化の枠を超えた紙の役割について新たな視点をもたらしている。情報伝達手段としての紙、芸術表現の媒体としての紙、宗教儀礼におけるシンボルとしての紙、それらすべてが彼女の作品に深く反映されている。

現代においては、紙の役割と認識が変化し続けている。半澤は、紙の物質性や触覚的な性質に焦点を当て、その存在感や時間による変化を探求している。彼女の作品は紙を作るプロセスを辿ることで、過去の物語を解き明かし、それを現在の文脈に重ね合わせるという時間横断的なアプローチを取っている。この取り組みは、現代の物質文化研究の文脈において、物質と人間の関係性を再考する重要な試みとして位置づけられる。

彼女の作品は、紙が文化や人々の生活に与える影響についての壮大な探求であり、文明の根底にある”物質と人間の関係”を深く見つめ直す機会を提供している。半澤友美のアートは、紙という日常的な素材に隠された無限の可能性を引き出し、その意義をグローバルな視点から再構築する。それは同時に、紙というメディアを通して、文化の枠を越えた創造性の本質を探る壮大な試みでもある。


参考文献:
Boas, F. (1940). Race, Language, and Culture.
Ingold, T. (2007). Materials against materiality.

WORKS / INSTALLATION VIEW

EXHIBITIONS

PROFILE

半澤友美 / Tomomi Hanzawa
栃木県出身、東京都拠点。

2010   女子美術大学芸術学部立体アート学科卒業
2018   ポーラ美術振興財団若手芸術家在外研修員、アメリカ、メキシコ、カナダにて調査、研修

個展(抜粋)

2024
「Self: multiple presents」ふじ・紙のアートミュージアム/ 静岡
2023
「泡沫を掴む Grab the bubbles」小松庵総本家銀座/ 東京
2022
「Narrative Act」DiEGO表参道/ 東京
2020
「Note」MARUEIDO JAPAN/ 東京
2019
「The Histories of the Self」ポーラ美術館 アトリウムギャラリー/ 神奈川

グループ展(抜粋)

2023
「皮膚で見る The Eyes of the Skin」 MARUEIDO JAPAN/ 東京
国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ 2023」中之条町/ 群馬
「シン・ジャパニーズ・ペインティング」ポーラ美術館/ 神奈川
「美の予感2023―象・彫・刻・塑―」髙島屋日本橋店、京都店、大阪店、名古屋店、横浜店、新宿店
2022
「PAPER : かみと現代美術」熊本市現代美術館/ 熊本
2021
「―肌理と知覚―半澤友美・盛永省治展」日本橋髙島屋 美術画廊X/東京
2020
「ポーラ ミュージアム アネックス展2020-真正と発気-」ポーラ ミュージアム アネックス/ 東京

受賞歴(抜粋)

2018
ポーラ美術振興財団 平成30年度 若手芸術家の在外研修助成

コレクション

パークホームズ荻窪三丁目​/ 東京
​ザ・リッツ・カールトン福岡/ 福岡
グランクレール HARUMI FLAG/ 東京
ホテル虎ノ門ヒルズ/ 東京